経営論 その1 (オリックスCEO宮内義彦著)

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1.日本の経済体制と企業経営

○日本は、官営経済、統制経済、市場経済の三つの経済体制が混合した経済社会である。市場経済に特化したアメリカ経済が効率性を高めて90年代に復活したのとは対照的に、効率の悪い官営経済や統制経済が依然として大きな力を占めている日本経済は、90年代以降、停滞を続けている。

○官営経済は国が運営する経済体制である。その本質は社会主義経済と変りはない。社会主義経済は効率の悪いことが歴史的に証明されているにもかかわらず、大きな経済システムとして、日本には今もなお強固に存在し、民間企業を圧迫している。

○市場経済は買い手が主導権を握っている経済体制である。買い手に喜ばれる商品やサービスを生出し続けなければならないため、売り手にはとっても厳しい体制といえる。また、買い手の立場のときに市場原理を発揮しておかないと、その後の厳しい競争に打ち勝つことはできない。

○市場経済には失業者という社会的弱者を生む弊害がある。しかし一国経済の中では市場原理によって大きくなったパイを削って弱者救済に回すことで、こうした弊害を和らげて、よりよい社会を作ることができる。どんな社会を作るかは、経済のパイが大きくなればなるほど、その選択の幅が広がる。

○国境を越えた市場経済の弊害については、それを解決する仕組みを持っていないのが現在の世界である。これは21世紀の最大の課題といえる。日本もそうした大問題に取組むべきであるが、その前に日本自体がグローバル化の負け組みになることを回避しなければならない。

○統制経済は「産業を保護することが社会に役立つ」との考えから成り立っている。しかしその弊害は「企業をつぶせない」ことである。企業をつぶすと、需給調整や産業保護をしてきた監督庁が論理矛盾を起こすからである。それでも最近はつぶさざるを得ない状況が増えてきた。

○統制経済がコスト高なのは、最も船足の遅い企業に合せてきたからである。このため、最も船足の遅い企業にとって統制経済は容易に利益が上がる経済体制であった。一方で、護送船団方式によるノロノロ運転で、経済全体の効率は悪化してきた。このコストを払ってきたのがユーザーである。

○統制経済では、企業の存続が保証されていたようなものであったため、イノベーションが起こらなかった。イノベーションが起こらないために、統制色の強い業種ほど衰退の道を歩んでいる。統制業種に慣れ親しんできた国民も少しずつそのゆがみに気がつき始めている。

○市場経済化していくうえで、規制をどのように改革するかという問題がしばしば議論される。公共性などさまざまな理由のもとに、特に金融や医療などの分野では規制改革は緩やかなものとなっている。しかし、社会的要請で経済活動を制限せねばならない規制の範囲はもっと狭め、市場経済のプラス面を採り入れることができるはずである。その方が経済全体にとってはプラスである。

○資本金は高いリスクをとる資金であり、株主は有限責任である。それなのに日本では個人保証や有担保主義により、経営に失敗すれば個人ではとても払いきれない多額の借金を負う無限責任へと転化する。しかし、アメリカの企業経営者は違う。アメリカ社会には、資本主義や株主会社の基本に忠実であるため、もっと気軽に起業したり、廃業して再びチャレンジできる土壌がある。

○企業のオーバー・プレゼンスは、世界でもあまり例を見ないステーク・ホルダー資本主義を生出した。利害関係者のすべてに善かれとするステーク・ホルダー資本主義は、アメリカの株主資本主義に比べて効率がよいとは言えない。これからの日本企業は、「効率よく富を創造して社会に提供する」という株式会社本来の守備範囲に戻るべきである。

○系列取引では、企業のあり方がさらに複雑になっている。経済合理性やイノベーションよりも系列内部の安定性が求められた。その温床となっていたのは統制経済である。経営者は、高い専門能力よりも調整能力に優れた人物を善しとするようになっていった。結果として、経営効率を上げる成果が期待しにくくなっていった。しかし、これからの経営者は、高い専門能力が問われるようになり、経営者本来の役目を十分に果たすことが社会的な責任となる。

○IT革命とグローバル化によって、市場経済を生き抜く時代に入った。これからの経営のあり方を自らの頭で考えて日本独自の経営を構築するという大きな課題が、現在の経営者の前に横たわっている。

続く

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