経営論 その2 (オリックスCEO宮内義彦著)

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2.これからの経営

○これからの経営者は「どんな株主を重視するか」を明確にする必要がある。一口に株主重視といっても、株主にはいろいろなタイプの株主がいるからである。そして日本企業の多くは、短期的な株主の期待に応えるのは困難な一方、中長期的な株主を重視する経営に長けているはずである。

○市場経済では、ライバル企業というのは想定しにくいものである。顧客ニーズの変化に対応できる体制を絶えず再構築していくことが、これからの経営の大きなテーマである。統制経済では、ライバル企業を見ていたが、これからは顧客のほうを向いて経営しなければならない。

○リストラクチャリングは経営者にとって不断の作業である。しかし突然リストラクチャリングに着手するのはあまりいいことではない。リストラクチャリングを不断に行っていれば、不測の事態を避けて、かつ新規事業に進出するなどの機動性が出てくる。

○経験と知識の集積されているコアビジネスこそ収益の源となる。それ以外はあくまでもコアビジネスがおろそかにならない範囲でのことである。コア以外にも先行投資として常に手を打っておくべきであるが、コアとその周縁ビジネス、さらにその外辺のビジネスといったように事業を明確に位置付けて、力の入れ方を変えていく必要がある。こうしたことは、市場経済ではコアビジネスが将来においても収益の源になる保証がないため、経営判断として重要になっていく。

○世の中の変化がますます早くなってきているため、これからはアライアンスが求められていく。自社にないものを補完し合うアライアンスは、事前主義よりも機動性があり、新しい価値を生出しやすい手法だといえる。合弁会社を設立するか、それとも業務提携の形を取るかは個々の事業内容によって使分けるべきである。

○財務の真実に肉薄することが「企業会計」の土台である。自社の状況を計数で厳密に把握できていなければ、正常な経営判断を下すのは困難であり、日本の会計制度はこの意味では脆弱で、多くの課題を残している。

○欠陥を持っていた会計制度は、結果として「含み経営」を許していた。含み経営は、有担保融資や法人制度と無縁ではなかった。日本の会計制度は国際基準に収斂されつつあり、企業会計を可能な限り実態に近づけようとしている。含み経営の時代は去り、新しい会計を見据えた新たな経営が求められている。

○日本企業の多くは単独主義の経営をしてきた。問題を抱えている子会社でもそれがなかなか表面にでなかった。しかし、子会社に隠していた問題は、いずれ本体の財務に悪い影響を与える。株主重視の視点から見たら、グループ経営の結果を示してもらえなければなんの意味もない。連結会計の導入はあくまでもスタートで、グループ経営の意味や経営体制を整える必要がある。一方で、連結納税制度の導入など残された課題もあり、日本企業は制度的なハンデを負いながら欧米企業と競わなくてはいけない状況にある。

○株式の公開とは、本質的に他人に会社を売却することである。子会社の株式を保有し続けるべきか手放すべきかは、上場することによる経営上の利害をグループ全体でよく吟味することが必要である。特に優良子会社の株式を上場させることは、グループ経営の視点から見ても慎重にすべきである。

○コーポレート・ガバナンスで重要な第一歩は社外取締役である。次に執行役員制度の導入で監督と執行を分離する。実際に業務を執行する者と、株主のためになっているかどうかを採点する者が同じでは適切な経営判断はできないからである。経営の監督と執行の分離は、経営の意思決定の迅速化にもつながる。

○執行役員制度を導入したら、次に社外取締役を招聘し監督体制を整える。内部出身の取締役だけでは株主のための監視をするには不十分だからである。社外取締役は、実際の業務に詳しい必要はないが、「ベスト・インタレスト・オブ・オール・シェアホルダーズ」という見解が求められる。

○社長が自分の後継者を選ぶ権限を握ると交代のタイミングや後継者の適性を見誤る危険性がある。それにもまして、後継者の適性を見誤ったとき、今度はその後継者を誰も辞めさせられなくなる。指名委員会はそのような弊害を緩和する機能を果たす。経営者の報酬についても報酬委員会で客観性を高めている。

○企業の監査システムを株主の視点から司る制度として、アメリカでは取締役会の中に監査委員会がある。社外取締役で構成されている監査委員会は、会計事務所や社内組織と連携しながら機能している。日本における監査役は事後的な計数監査にとどまっている。監査役を強化しようという動きがあるが、違法性を監査するだけの監査役の強化はコーポレート・ガバナンスの強化につながらない。監査役という制度自体を取締役と一本化するなどの新しい制度作りが求められている。

○アメリカの経営者は取締役会に対する説明責任が課せられている。これが、形骸化した株主総会を補完する役割を果たしている。説明を厳しく求める株主の増加は、企業にとって幸せなことである。経営者はそれとともに重要事項をできるだけ早く、かつ広くディスクローズすることが求められる。それらによって株主や潜在株主との信頼関係が築かれる。

続く

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