経営論 その3 (オリックスCEO宮内義彦著)

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3.これからの経営と雇用

○知識社会の到来によって、雇用の長期化は重要度を増しつつある。長期雇用が前提のコア社員を中心とした情報の共有や新たな価値の創造が期待できるからである。コア社員の周縁に成功報酬型の専門知識を持った社員や、さらにその外辺にパートタイマーを配慮することによって、より高度な知の創造が可能になるだろう。コスト面で見ても、コア社員を少数精鋭化する一方で、周縁社員や外辺社員を厚くしておけば人件費の変動費につながる。

○知の創造のためには、多様な社員がますます重要になる。これからは採用の仕方、雇用形態などを社員の多様化に合せて調整いていく必要が出てくる。しかし、そのような社員が少数派であるうちは本当の実力は発揮しにくいものである。職場で珍しくない存在になって初めて、個々の人材多様化政策の真価を問うことができる。

○きちんとした人事評価とそれに見合う報酬を出さないと、優秀な人材は社外に流出してしまう時代になりつつある。年功序列・終身雇用のもとでは、定年までの長期間での過不足を調整することができた。これからは人材の流動化が進むために、そのようなやり方は通用しなくなっていく。アメリカ企業の人事評価や報酬制度を研究して採り入れることも必要。

○企業会計と同様、人事評価でも真実に肉薄することがもっとも重要である。真実に肉薄するためには十分なデータを備えることが基本である。社員一人一人の多角的な評価システムや記録の整備において、日本の企業社会は新しいシステム作りが求められている。

○企業会計に例えれば、日本企業の年功序列賃金は逓増する減価償却費のようなものである。このような減価償却の考えを一律に適用すれば、人材を引止めることができない。コア社員の処遇も実績を加味した変動償却方式に変えていく必要がある。これからの経営では、多様な人材をうまく活用するために日本企業のB/S方式とアメリカ企業のP/L方式をうまく併用していく必要ある。

○日本企業が持つ「暗黙知」を共有化するのに土壌は貴重である。そうした土壌の上で、チームプレーの質をより高めていくことができれば、日本企業が総合力での強みを発揮できるはずである。チームプレーの質を高めるには、人事評価面で能力主義を導入し、個々人の「知」の量を増やす必要がある。

○報酬制度以前の問題として、企業の持つ社会的な意義や役割、そこで働くことの充実感や達成感が求められる。同時に「社員に対してどれだけ刺激的な仕事を与え続けているか」「社員はどれだけ期待に応えているか」というほどよい緊張関係の持続が大切になる。全く緊張感がなくとも、過度に緊張感を与えすぎても、社員は辞めていく。これからの人事担当者の仕事は、社内での人材分布を経営者にきちんと示すことである。

○企業経営者は経済効率の達成という目的に向けて、その構成員に企業像や理念を示すことが求められる。企業活動に参画する社員に高い社会性を求めるとともに、それに加わることにより大きな意義が与えられる。企業活動の目標達成のプロセスに高い社会性を求めることで、さらに効率向上が期待できる。

○組織はあくまでも便宜上のものにすぎない。組織を作ることは、ヨコの情報流通が悪くなるなどセクショナリズムの弊害ももたらす。軍隊ならば別であるが、企業の成果は組織図では作り出せない。こうしたことを言い続け、組織の弊害を絶えず壊していくのが、経営者の重要な役割である。

○経営トップの役割は日々の仕事をこなすことではなく、3年以上先のことを考えることだと思う。例外は会社が危機に瀬したときである。「会社はつぶれるものだ」ということを常日頃から意識していないと、本当の危機を招く。グローバルな市場経済の時代で、経営トップに課せらているものは「パラダイムを新たに」ということ。

○IT革命やグローバルな市場経済化が進む一方、経営手法が標準化されてきた。これからは経営者の先見性がますます重要になる。この先見性を身につけるためには、判断に必要な情報を集めることが肝心。失敗だと判断したらすぐやめることも大事である。「仕事はゲーム感覚で」というつもりになれば、物事の本質が見えてくるのではないだろうか。「本質を見極めること」が先見性を身につける上で一番重要である。

○これからの経営者には、最新の経営技術を積極的に採り入れる勉強家である一方、多様な人材を上手に活用する合理的なオルガナイザーであることが求められる。しかし、エモーショナルな日本人を合理性だけで動かすことは難しい面がある。一方でエモーショナルな社員は、やる気を出すと、論理的な社員よりも大きな成果を上げることがある。本気で「泣きながら合理性の方に振る」ことができる経営者こそが、これから求められる経営者像であろう。

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