ホーム > トピックス > 月刊税理 2007年1月号
 業容拡大のための資金調達手段とその対策

月刊税理 2007年1月号
業容拡大のための資金調達手段とその対策
税理士 甲賀伸彦
 
ポイント
  1) 中小企業にとっても、景気の上昇に伴い「間接金融」から「直接金融」による資金調達方法への移行が課題となっている。
  2) 「間接金融」なら、無担保・無保証の融資や「チェックリスト」を活用した融資が有利となる。
  3) 「直接金融」なら、「少人数私募債」が比較的手続が簡単に発行が可能である。
  4) 「リース」取引を活用すれば、金融機関からの与信枠の確保及び財務体質改善の改善を行うことができる。


  T 資金調達を考えるための視座

 我が国の中小・零細企業の資金調達方法は、金融機関からの借入れが一般的であるが、特に中小・零細企業においては、その傾向が強く、ほとんど例外なく金融機関からの借入れによる資金調達で賄われていると思われる。しかしながら、近年の金融機関の不良債権処理など体質改善を行うために、貸渋り・貸剥し、あるいは金利の引上げなどが行われるようになり、金融機関からの借入れが容易ではなくなっているのが現状である。
  ここで言葉の整理をしてみたいと思う。企業の資金調達の方法としては、直接金融(*1) と間接金融(*2) に区分することができる。

*1 資金を必要とする企業が株式や社債権などを発行し投資家から資金調達をすること。すなわち、借り手の企業と貸し手(個人や企業)の間には、金融機関が介在せず直接取引となるため、このように呼ばれる。
*2 銀行などの金融機関からの借入れによる資金調達。金融機関が預金として個人や企業から集めた資金を、金融機関の自己責任で、借り手の企業に貸し付けるため、当然ながら、借入れの金利は、預金者に対する金利よりも高い金利になり、その差額が金融機関の利益。金融機関が介在し、貸し手(預金者)から集めた資金を間接的に借り手の企業に貸し出しているため、このように呼ばれている。

 このような環境のもと、日本の金融システムについては、間接金融から直接金融へと移行することが課題となっている。政府は、経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002(*3) で、「預貯金中心の貯蓄優遇から株式・投資信託などの投資優遇への金融のあり方の転換を踏まえた直接金融への信頼向上のためのインフラ整備など、証券市場の構造改革を一層推進していく」 ことを明言している。これを踏まえて、金融庁は、平成14年8月に証券市場の改革促進プログラム(*4) を公表し、1) 誰もが投資しやすい市場の整備、2) 投資家の信頼が得られる市場の確立、3) 効率的で競争力のある市場の構築――という三つの柱に沿って、具体的な施策を提示している。

*3 平成13年6月以後、経済財政諮問会議が答申した、いわゆる“骨太の方針”の第2弾。
*4 我が国の今後の金融システムは、有効な価格メカニズムの下でリスクが適切に管理・配分される市場機能を中核としたものが必要として、発行体である企業、市場仲介者、市場開設者、投資家に関する制度改革について、包括的な取組みを迅速に実施するとの考え方を金融庁が表明したプログラム。
 ところで、会計人の立場から、「貸借対照表」を通して資金調達方法を見てみよう。
「貸借対照表」の構造を考えてみると、貸方は、資本(金)の調達源泉を表し、具体的には、「資本」、「負債」がこれに当たる。一方、借方は、その資本(金)の運用形態を表し、「資産」がこれに相当する。通常であれば、中小・零細企業の資金調達方法としては、返済不要である「資本」の増加、すなわち資本金の増加の形が一番よいわけだが、株主と役員がほぼ同一である中小・零細企業にとって、気軽に社長が返済不要の資金を提供するような時代ではなくなっている。よって、金融機関からの借入金、すなわち「負債」よって資金調達を行っているのが現状である。しかしながら、「間接金融」たる借入れが厳しくなっており、これ以外の方法である「直接金融」の方法を探るのも、本稿のテーマの一つとなる。
  
   U 間接金融(銀行借入れなど)

 まずは、中小・零細企業の資金調達方法の王道ともいえる「間接金融」のポイントを探ってみる。

無担保・無保証融資

 運転資金、あるいは設備資金が必要な方で、保証人あるいは担保がないために銀行から融資を断られたケースが多いのではないだろうか。また、金融機関を取り巻く環境の変化に伴い、民間金融機関がプロパー融資を行うと金融機関の自己資本比率が低下してしまうため、自己資本比率(*5) 低下の影響を受けない信用保証協会付きの融資を進められているのではないだろうか。
 ここでは、このような環境下でも対応できる無担保・無保証融資について解説する。

*5 自己資本(返済不要の資本)÷総資本(自己資本+他人資本)。自己資本比率が高いほど会社の経営は安定し、倒産しにくい。

a) 政府系金融機関の利用

 (1) 国民生活金融公庫

 小規模事業者や新規開業予定者で運転資金や設備資金の融資が必要だが、十分な担保や適切な保証人がいない場合、無担保・無保証人で利用できる融資制度が、経営改善貸付け(マル経融資)である。商工会議所・商工会等が国民生活金融公庫に事業者を推薦するという形で、いわば商工会議所・商工会等が保証人のような役割を果たすことで、会員への融資をバックアップする制度となっている(図表−1参照)。

図表−1 国民生活金融公庫による融資
事項 融資基準 融資額 返済期間
範囲 一定の要件を満たす従業員が20人以内(商業・サービス業の場合は5人以内)の事業者 ・550万円以内
 別枠として450万円
・最大1,000万円
・運転資金の場合は5年以内
・設備資金の場合は7年以内
・ともにこの範囲内で最大6か月までの据置期間あり
(注) 新規開業予定者や開業後税務申告を2期終えていない場合は、新創業融資制度(新規開業ローンの保証人特例措置)により無担保・無保証人で融資を受けることが可能。融資金額は、750万円以内となっており、返済期間は上表と同様である。

(2) 中小企業金融公庫

 平成18年4月から、大部分の特別貸付けで、無担保特例を利用できるようになっている。よって、担保の有無にかかわらず、必要な資金を借り入れることが可能である。無担保特例は財務状況等から見て信用リスクが比較的小さいと認められる企業に、貸し付ける制度である(図表−2参照)。

図表−2 中小企業金融公庫による融資
事項 担保 融資額 返済期間 備考
範囲 免除 最大8,000万円 最長5年間 信用リスクに応じ、所定の利率が上乗せされる


b)   「中小企業の会計に関する指針の適用に関するチェックリスト」を活用した無担保融資商品等

 金融検査マニュアル別冊[中小企業融資編](*6) において、企業経営者の資質の判断ポイントとして「財務諸表などの計算書類の質の向上に向けた取組み」が明文化された。これを具体化した融資制度が、「中小企業の会計に関する指針の適用に関するチェックリスト」を活用した融資である。

*6 金融庁が、平成14年4月12日に発表した中小企業の債務者区分等を判断するための具体的な事例集 (ダウンロード PDFファイル / 460KB)

 現在、多くの金融機関において、このチェックリストを活用した融資商品が取り扱われており、また、信用保証協会においても、保証料率の割引きの際の必要書類として利用されている。
 平成18年4月1日より各信用保証協会では、中小企業者の財務内容に応じた基準料率(0.5から2.2%の範囲の9段階、基準は1.35%)に、個々の中小企業者の定性要因(財務以外の要素)を加味して、最終的に各保証協会が適用料率を決定しているが、さらに「中小企業の会計に関する指針」の適用状況を公認会計士又は税理士により確認できる場合には、中小企業に対する割引(0.1%)を実施している。

c) 中小企業新事業活動促進法による融資

 中小企業庁では、創意と熱意のある中小・零細企業の支援の一環として、中小企業新事業活動促進法(*7) に基づき、新たなチャレンジに取り組む際に「経営革新計画」を策定し、その承認を受けた者に対して、さまざまな支援策を設けている。

*7 平成17年4月13日公布・施行。中小企業に分かりやすい施策体系を実現するために、中小企業経営革新支援法、中小企業の創造的事業活動の促進に関する臨時措置法、新事業創出促進法の3法を整理統合し、異分野の中小企業がお互いの「強み」を持ち寄り連携して行う新事業活動(「新連携」)の支援を加え、昨今の経済社会環境の変化を踏まえた施策体系の骨太化を図ったもの。

 「経営革新計画」とは、経営を向上させる「新たな取組み」を示す具体的な数値目標を持った計画のことをいい、これらは、個々の中小企業にとって新たな取組みであれば、すでに他社において採用されている技術・方式を活用する場合でも原則として承認の対象となる。ただし、相当程度普及しているものは、含まれない。
  数値目標を含む「経営革新計画」の作成・提出後、各都道府県の審査を経て、承認された場合には、図表−3のとおり事業資金、税制、販売開拓などの支援措置を活用することができる。  
  しかしながら、計画の承認が必ずしも支援措置を保証するものではないことから、注意が必要である。

図表−3 中小企業新事業活動促進法の適用メリット
信用保証の特例  1. 資金調達に必要な信用保証の限度額が拡大。
2. 通常の保証制度の他に、無担保保証枠も設定。
3. 特に小規模事業者には、無担保・無保証人保証もある。
低利融資 1. 固定金利で政府系金融機関から低利融資が得られる。
2. 特に中小企業金融公庫からの融資が多く見受けられ、利率も一番低い「特別 利率(3)」が適用。そのため、設備投資などが伴う場合などは、非常に便利な制度。
3. 担保・保証に特例あり。
税 制 同族会社の留保金課税が課税対象外となる。

 

  III 直接金融

 資金調達の手法には、「資産」、「負債」、「資本」の部による調達方法があり、それぞれ、「アセット・ファイナンス」、「デッド・ファイナンス」、「エクイティ・ファイナンス」と呼ばれている(図表−4)。

図表−4 直接金融による調達手法の分類
  分類名称 資金調達方法
資産の部 アセット・ファイナンス 資産の流動化・証券化など
負債の部 デット・ファイナンス 社債発行「少人数私募債」など
資本の部 エクイティ・ファイナンス 第三者割当増資など

 本稿では、「直接金融」に限定して、その手法を解説する。

1) アセット・ファイナンス

 アセット・ファイナンスとは、貸借対照表の借方、すなわち「資産」に当たる項目を資金化する方法で、資産の流動化や証券化などが挙げられる。これは、資産自体の持つ信用力やキャッシュフローから生み出される能力が重要になってくる。
 これに該当する手法は、企業が保有する売掛債権(売掛金・受取手形)について、保証や売却することで資金調達する「ファクタリング」や、自社の固定資産をリース会社に売却し同時にその資産に対してリース取引を行い資金調達する「リースバック」、さらには不要資産の売却などが挙げられる。

2) デッド・ファイナンス

 デッド・ファイナンスとは、貸借対照表の貸方のうち「負債」に当たる部分の資金調達方法で、返済の義務があり、それに見合う調達コストを払うのが特徴である。比較的手続が簡単である「少人数私募債」による資金調達が注目される。
 「私募債」とは、非公募債あるいは縁故債とも呼ばれており、証券会社を通じて広く募集する公募債とは異なり、50人未満の購入者が直接引き受けることによって発行される社債をいう。また、官庁などへの届出の必要もなく、手続も比較的簡素である。さらには「私募債」は、一定の財務水準を持つ企業が発行している場合が多いので、対外的なアピールも期待することができる。
  最近では、銀行が引受金融機関と保証金融機関の二役を担うことにより、私募債に物的担保を保証せずに発行できる銀行保証付き私募債(*8) も登場し、ますます直接金融による資金調達が容易になってきている。

*8 企業が発行する社債の元利金支払いについて、銀行が保証することで無担保による社債発行を可能としたもの。一定の基準が設けられており、それをクリアした企業が発行できる。

3) エクイティ・ファイナンス

 エクイティ・ファイナンスとは、貸借対照表の貸方のうち「資本」に当たる部分の資金調達方法で、第三者割当増資や新株引受権付き社債、また従業員持ち株制度などが考えられる。
 

   IV リース

1) 中小企業におけるリースの位置付け 

 リース会社も、中小・零細企業にとって頼りになる金融機関の一つである。
 企業の財務体質改善のためにもリース会社の利用は、欠かせない存在となってきている。例えば、建設業などは、経営事項審査において評点アップを目的に、積極的に手持ちの固定資産をリース化している。すなわち、新規取得資産、あるいはすでに使用している資産をリース取引にすることで資産項目を減額し、総資産(本)を圧縮している。こうすることで、企業の安全性の指標たる自己資本比率が向上し、評点アップとなるわけである。
  我々、税理士事務所は、リース取引に関して、法人税基本通達12の5‐2‐1から12の5‐2‐17に定めるリース取引通達に基づいて、顧問先の会計・税務処理の指導を行っているところである。
 しかしながら、これは、事後処理的な問題であって、企業の設備資金調達手段としてリース取引の本質を理解することが必要となる。一般に、創業直後などといった理由で、資金力が乏しい、あるいは信用力が低い企業は、設備資金を借入金等で調達することが非常に難しいのが現状となっている。そこで、設備を「購入する」ことではなく、「使用する」ことが設備投資の本来の目的であることに着目し、新たな設備調達手段として誕生したのがリース取引だ。

2) ファイナンス・リースの概要

 リース取引とは、一般の事務機器、工場設備などの動産を対象とする長期間にわたる賃貸借契約と定義されるが、通常「リース」というときには、ファイナンス・リースのことを指している。
 ファイナンス・リースは、周知のとおり、設備資金を貸し付けるのではなく、設備そのものを賃貸する取引であるが、もともと設備調達手段の代替的手段として構築されているため、リース会社という金融機関が存在して、初めて成立する取引である。
  リース会社は、1) 大手家電・事務機器メーカーが母体のメーカー系、2) 都市銀行、地方銀行など銀行出資の銀行系、3) 大手商社が母体の商社系、及び 4) 上記のいずれにも属さないオリックスなどの独立系――に大きく分けることができる。
 クレジット分野からリース分野に参入してきたメーカー系については、リース会社が物件販売業者を代理店としてリース取扱契約を交わし、販売業者が物件販売時に提携先のリース会社の中から条件の良いリース会社をユーザーに紹介斡旋し、ユーザーは代理店経由でリース申込みをする形態となっている。どちらかというと、取扱いは事務機器が中心で比較的金額が小額のため、審査基準が甘めだが、料率は若干高めな感じがする。また、販売業者が複数のリース会社と提携しているため、Aリース社では審査にパスしなかったが、Bリース社ではパスしたということもあり、財務体質が脆弱な企業にとっては、有効かもしれない。
  オリックス・グループなどの独立系は、リース取引をはじめ、銀行と同様に融資業務や不動産関連ファイナンスも行っており、企業の資金調達を様々な形でバックアップしている。まさに“金融のデパート”といった感じである。今後は、中小・零細企業にもそのノウハウが浸透することで、倒産企業が減るのではないかと期待したいところだ。
  ところで、平成15年度のリース比率(*9) は、8.7%となっており、その額は6兆5,917億円となっている。また、リース取扱高の機種別構成では、情報関連機器が35.9%と最も多く、そのうち約29%がコンピュータ関連と最大のシェアとなっているが、税法改正の影響もあってか、ここ数年シェアはダウン傾向にある。さらに商業用及びサービス業用機械設備、産業機械、輸送用機器の順となっており、これらの種別を含めて約75%を占めている。

*9 民間のリース設備投資額÷民間の設備投資

 リースのユーザー別構成のうち件数ベースでは、中小・零細企業が全体の6割を占めている。また、リース利用率は約91%で、10社のうち9社の企業が利用しているのが現状となっている。リース会社は、中小零細企業にとって最も身近な金融機関なのかもしれない。

3) リース・購入の判断ポイント

 リース取引で設備を調達することで、銀行などの金融機関からの与信枠はそのまま残ることになる。結果として利用可能資金は、実質的に増加することになるので、単に最終的なコスト高を懸念してリース取引を避けるべきではないと考える。
 顧問先から「購入が良いか、あるいはリースが良いか」といった質問がなされるケースがあるが、資金的に余裕があり、自己管理能力のある企業については、もちろん「購入」とお答えしている。しかしながら、経済環境の変化に伴い、非常に少なくなった。リースのメリット・デメリットをまとめると図表―5のようになる。

図表−5



・ 毎月同額支払いなので、資金計画がたてやすい
・ メインテナンスリースの場合は、物件の保守修繕はリース会社が行う
・ 原則としてリース料は損金参入を認められている
・ 一時的に多額の資金を必要としないで、設備を利用できる
・ 金融機関の与信枠を考慮する必要がない
・ リース期間満了に際し、廃棄料などの費用負担がない
・ 再リースする場合は、リース料が抑えられる




・ 原則として解約できない
・ 解約の場合、違約金が発生する
・ 所有権はリース会社にある
・ 金利相当分を負担する必要がある
・ 引き続き物件を使用する際はリース期間後も再リース料が必要になる
・ 原則、買取りができない
 

  おわりに

 最後になるが、中小・零細企業の資金調達方法も時代の要請とともに、大きく変化している。今後は、会社の将来性等を加味した資金調達方法が現れることが期待される。


<< 戻る 進む >>


ホーム事務所概要所長プロフィールトピックス行政書士
各種セミナー出版書籍リンク求人情報メールショッピング


Copyright © 甲賀伸彦税理士事務所 1997-2011
All Rights Reserved.