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 月刊「税理」 連載コラム 2004年4月号
第4回「金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)」について −その2−
 前月号の内容から「金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)」を理解することで、中小零細企業の財務体質強化を図るためのモノサシになることを知りました。金融検査マニュアルの中小・零細企業等の債務者区分に係る検証ポイント及び検証ポイントに係る運用例を詳しく説明してください。

 平成14年6月に発表された「金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)」の前段で、中小・零細企業等の債務者区分を行う際には、その特性を踏まえて判断する必要があるため、その検証ポイントが述べられています。この点については、前回解説したように「代表者等との一体性」や「企業の技術力、販売力や成長性」、さらには「経営改善計画等の策定」や「貸出条件及びその履行状況」などが挙げられています。

 また、検証ポイントに関する運用例については、16事例紹介されています。これらの内容についてはあとで触れますが、検証ポイント及び検証ポイントに係る16の運用例の中で注目すべき点として、当該企業、あるいは金融機関が作成を要求されている各種の書類等です。
実際に使われている文言を抜き出して見ました。

● 経営改善計画等
● 収支改善計画等
● 収益改善計画等
● 事業計画等
● 収支計画等
● 経営指導計画書等
● 新商品の開発計画
● 返済能力を検討した資料
● 業況の改善等の可能性を検討できる資料
● 金融機関の業務日誌等
● 決算書等

 上記のように、「金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)」の中に記述されている書類等は、画一化された計画等でないことがお解りいただけると思います。特に、「金融機関の業務日誌等」が挙げられている事は、常に金融機関と当該企業との間で中身のある意思疎通が行われ、さらに意思疎通を通じて経営実態の把握や、債権管理の一環として当該企業への経営指導等の働きかけを行っている客観的証拠として評価されている点が重要と思われます。すなわち、当該企業の実情や規模に合わせた検証可能な資料が存在すれば、金融機関が企業実態を把握している事につながるという事実を認識しなければいけません。

 それでは、検証ポイントに関する運用例を見ていきましょう。ここでは、紙面の都合もありますので、16事例のうち、特に重要と思われる9つの事例について紹介させていただきます。

1) 企業の実態的な財務内容について
 貸借対照表の負債の部に、「役員借入金」勘定がある場合、役員が返済の要求をしない場合には、自己資本相当額として取り扱うことは可能である。また、「役員貸付金」勘定がある場合、回収可能性を検討し回収不能額がある場合には、自己資本額相当額から減額する必要があると考えられる。ただし、代表者の個人支出や資金繰りの状況などを確認する。

2) 企業の代表者報酬により赤字となっていることについて
 多額の「役員報酬」や「支払家賃」勘定により赤字になっている場合には、赤字の理由による債務者区分を行わず、赤字の要因や金融機関への返済状況、返済原資について確認する。

3) 代表者の資力を法人・個人一体とみることについて
 企業に返済能力がない場合、代表者などの個人資産を企業に提供する意思がある場合、それらを勘案する。ただし、代表者個人の借入金、第三者保証債務がないかを確認する。

4) 技術力について
 技術力を保有し、今後これにより業績の改善が予想される場合には、これを勘案する。

5) 販売力について
 販売基盤が強固で、今後これにより業績の改善が予想される場合には、これを勘案する。

6) 代表者等個人の信用力や経営資質について
 健康上の理由や一時的な理由により業績が低迷しているが、代表者などの経営者個人の信用力や経営資質が非常に高く、今後、業績の改善が予想される場合には、これを勘案する。

7) 業種の特殊性について
 新規設備資金や改築資金が多い業種(例:温泉旅館業)については、現時点の収支や財務体質のみならず、赤字の要因、投資計画による収支の見込みなどの推移を勘案する。

8) 経営改善計画の策定について
 経営改善計画書がない場合であっても、これに代えて今後の資産売却や収支見込などを基に返済能力を確認する。

9) 返済条件の変更を行っている場合について
 設備投資資金を融資する場合、短期資金で融資し、これを後に長期資金に切り替えるものなど、通常の商習慣の中での条件変更もある。これを条件変更による債務者区分の変更を行わず、資金使途、変更理由を勘案する。

これらは、各金融機関が行なった自己査定の内容について金融庁が検査する際のチェックポイントですが、各金融機関が当該企業を融資審査する際の検証ポイントとしても同義的にとらえることができます。よって、これらに該当する場合には、金融機関との意思疎通が重要になってくるものと思われます。



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