ホーム > トピックス > コラム(3)
 月刊「税理」 連載コラム 2004年3月号
第3回「金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)」について −その1−
 金融機関は、中小企業の実態を反映した的確な検査を確保するための「金融検査マニュアル別冊」(中小企業融資編)が公表されたために、企業への融資が困難になってきた、という話を聞きます。一方では、曖昧だった点が解消されたので、本来難しいと思われた融資も可能になったという話もあります。「金融検査マニュアル別冊」(中小企業融資編)について詳しく教えてください。

 金融検査については、平成10年に当時の大蔵省金融検査部が「新しい金融検査に関する基本事項について」を定めて、金融機関の自己責任原則の徹底と市場規律とを基軸に、明確なルールを前提とした透明性の高い行政の確立を目指してきました。具体的には、金融検査の基本的考え方及び検査に際しての具体的着眼点等を整理したマニュアルである「金融検査マニュアル」を整備し、さらには一般に公表することによって、国際的信頼や預金者や納税者等の理解を得る事で、金融機関の自己責任に基づく経営を促し、金融機関への信頼が確立できることを目標とするものであります。

 平成11年7月の「金融検査マニュアル」による検査が実施されて以来、それに基づく金融庁の検査が行われてきました。この間、平成12年5月、平成13年4月、さらには平成13年7月に、内的・外的環境の変化に応じて若干の整備・補強が行われています。

 しかしながら、「金融検査マニュアル」が機械的・画一的ものであるため、中小・零細企業などの債務者区分が抽象的でわかりにくく、それらの企業の経営実態を反映していないとの声もありました。

 このような中、平成14年2月に政府から発表された「早急に取り組むべきデフレ対応策」において、経営実態に応じた検査の運用確保策のひとつとして、中小・零細企業等の債務者区分の判断について、具体的な運用例を作成することになりました。その後パブリックコメントを受け、同年6月に「金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)」として公開されています。

 また、平成15年12月22日には、「金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)」等の改定(案)が公表されました。これは、前回の特集で詳しく述べた「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」において、「中小企業の実態に即した検査マニュアル別冊の改定」が盛り込まれたことから、検討会が7回ほど行われ、改定案が発表されたものです。今回もパブリックコメントを受け付けているところですが、2月中には最終決定され、3月期分の検査から適用されることになる予定であります。

 現行の「金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)」に書かれている主な内容は以下のとおりです。

 債務者区分においては、まず初めに「代表者等との一体性」を強調しています。すなわち、中小・零細企業等の場合、企業とその代表者等との間の業務、経理、資産所有等との関係は、大企業のように明確に区分・分離がなされておらず、実質的に一体となっている場合が多く見受けられるものです。個人が事業を立ち上げ、その後、一定の成果が得られると確信した段階で、事業主が自ら出資し、社長として法人格を取得し企業化するのが一般的です。スタートがこのような形ですから、例えば、社屋が社長個人の所有でそれを会社に賃貸したり、また、短期的に資金が不足した場合などは、金融機関から借入れるのではなく、社長自らの資金を貸付けている場合(返済が計画的に進む場合はむしろ少ない)が多く見受けられます。税理士として数多くの中小・零細企業等の財政状態・経営成績を見ていますが、これらの取引があるのが通常であり、実態なのです。

 したがって、中小・零細企業等の債務者区分の判断に当たるときは、当該企業の実態的な財務内容、代表者等の役員に対する報酬の支払状況、代表者等の収入状況や資産内容等について追加的な検証が必要とされました。

 次に「企業の技術力、販売力や成長性」について言及しています。企業の技術力、販売力や成長性については、企業の成長発展性を勘案する上で重要な要素であり、中小・零細企業等にも、技術力等に十分な潜在能力、競争力を有している先が多く考えられるため、検査において、こうした点についても着目する必要があるとしています。

 さらには、中小・零細企業等においては、大企業のように精緻な経営改善計画書等を策定できない点にも触れ、これに代えて、今後の資産売却予定、役員報酬や諸経費の削減予定、新商品等の開発計画や収支改善計画等を勘案して債務者区分の判断を行うことが必要としています。
また、貸出条件及びその履行状況については、債務者区分を判断する上で重要な要素であり、仮に、条件変更等が行われている場合には、その条件変更等に至った要素について確認する必要があるとしています。

▼ここだけは要チェック
 「金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)」の検証ポイントに関する運用例は、16事例が挙げられています(次回詳しくご説明します)。あくまで、これらの事例はある一定の条件下における考え方を示したものであるので、検査に当たり、債務者の実態的な財務内容、資金繰り、収益力や貸出状況及びその履行等個々の債務者の経営実態を総合的に勘案して債務者区分の判断を行う必要があるとされているので、注意が必要です。



<< 第2回 < 第3回 > 第4回 .>>


ホーム事務所概要所長プロフィールトピックス行政書士
各種セミナー出版書籍リンク求人情報メールショッピング


Copyright © 甲賀伸彦税理士事務所 1997-2011
All Rights Reserved.