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 月刊「税理」 連載コラム 2004年10月号
第10回 中小企業の金融情勢について その2
 平成16年2月26日に「金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)」の改訂版が発表されてから、中小企業を取り巻く金融情勢についての変化があれば、教えてください。

これまでの中小企業を取り巻く金融情勢

 中小企業を取り巻く金融情勢については、本連載第2回(2月号)で取り上げた様に、金融庁は、平成14年に主要行の不良債権処理を通じ、経済再生を図るための「金融再生プログラム」を取りまとめました。「金融再生プログラム」は、平成16年度までに主要行の不良債権比率を半分程度まで低下させるとともに、資産査定の厳格化、自己資本比率の充実及びガバナンスの強化などについて、新しい金融行政の枠組みを示したものです。

<「金融再生プログラム」の内容>

  1. 新しい金融システムの枠組み
    • 安心できる金融システムの構築
    • 中小企業貸出に対する十分な配慮
    • 平成16年度に向けた不良債権問題の終結
  2. 新しい企業再生の枠組み
    • 「特別支援」を介した企業再生
    • RCCの一層の活用と企業再生
    • 企業再生のための環境整備
    • 企業と産業の再生のための新たな仕組み
  3. 新しい金融行政の枠組み
    • 資産査定の厳格化
    • 自己資本比率の充実
    • ガバナンスの強化

 上記の内容を受けて、中小企業の実態を反映した的確な検査などを確保するため、「金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)」の趣旨や内容の周知徹底を借り手企業に対して促してきました。さらには、本連載第5回(5月号)解説したとおり、平成16年2月26日に「金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)」の改訂版が作成されました。以前よりも中小企業の実態に即したものに改められ、特に積極的に債務者との関わり合いを真摯に果たしている、あるいは果たそうとしている金融機関については、結果として検査でも差が出るような内容となっています。

 また、「金融再生プログラム」の流れの一つとして、平成15年3月27日には「リレーションシップバンキングの機能強化に向けて」と称する報告書が発表されました。「リレーションシップバンキング」とは、長期継続する関係の中から、借り手企業の経営者の資質や事業の将来性等についての情報を得て、融資を実行するビジネスモデルをいいますが、おもに主要行とは異なる特性を有する地方銀行、第二地銀、信用金庫及び信用組合など中小・地域金融機関がこれに該当することになります。これを受けて翌日には「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」が発表されました。平成15年から平成16年度までの2年間の「集中改善期間」に、(1)中小企業金融の再生に向けた取組や、(2)各金融機関の健全性の確保、収益性の向上等に向けた取組を主な内容としています。これについて、各金融機関は「リレーションシップバンキングの機能強化計画」を提出しており、半期ごとに実施状況を当局がフォローアップし、取りまとめた上、公表しています。

「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」

 その後、「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」に基づき、平成16年5月31日には「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」が公表されました。これは、多面的な評価に基づく総合的な監督体系の確立を図ることを目的としており、中小・地域金融機関に特化し、その業務の特性を踏まえた初の監督体系となっています。

「金融重点強化プログラム」(仮称)

 平成16年6月4日の閣議決定で「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2004」が発表されました。これによると平成16年度は、集中調整期間の仕上げの年であり、バブル崩壊後の負の遺産からの脱却に目途をつけ、また、「金融再生プログラム」を着実に推進し、不良債権問題を終結させること等により、金融システムを強化するとともに、中小・地域金融機関の機能強化を図るとしています。さらに、平成16年度までが「集中調整期間」であったように、平成17年度及び平成18年度の2年間を「重点強化期間」と位置づけています。「重点強化期間」においては、平成16年末を目途に策定される「金融重点強化プログラム」(仮称)に基づき、不良債権問題への対応から脱却して、金融・証券市場の構造改革と活性化により、我が国金融セクターをさらに強化・充実させ、経済社会の新たな成長に向け、国際的にも最高水準の金融機能が利用者のニーズに応じて提供されることを目指すとしています。

 具体的には、次の5つを柱とした金融行政への積極的転換を図ることが示されています。

  1. 強固で活力のある金融システムの構築
  2. 金融機関の自主的・持続的な取組による経営強化
  3. 地域活性化・中小企業再生に貢献する地域金融や中小企業金融の構築
  4. 利用者のニーズに対応した多様で高度な金融サービスの提供
  5. 金融実態に対応した取引ルール等の整備とその下での利用者の安心の確保

 これを受けて金融庁では、7月に発表した政策評価実施計画の中で、今後の政策方針として、集中調整期間の終了後も金融セクターにおける構造改革の手綱を緩めることなく、我が国金融セクターをさらに強化・充実させ、経済成長の基盤とするため、重点強化期間を対象とした「金融重点強化プログラム」(仮称)を策定すると発表しています。

新BIS規制

 BIS規制は、国際業務を営む銀行の自己資本比率を8%以上に維持することで、国際的な金融システムを安定化させるため、1988年に発表されました。日本では、1993年3月末から適用が開始されています。ただし、国内業務だけを行う銀行は4%以上とする独自の規制も設けています。また、1996年には、従来の信用リスクに加えて保有する有価証券などの変動リスク(市場リスク)も考慮に入れるように一部改正されました。

 2004年6月に発表された新BIS規制案では、自己資本比率の最低基準8%は変わりませんが、リスクの計測方法にオペレーショナル・リスクを追加しました。また、従来の画一的な信用リスクの考え方を不良債権の引当率応じて反映させることにしました。これにより、さらに不良債権処理が行われると考えられます。

<新BIS規制の自己資本比率の計算式>
自己資本  ≧ 8%
  信用リスク + 市場リスク + オペレーショナル・リスク  

このほか、来年4月1日からは、ペイオフの凍結が解除行われることになっています。決済性預金は、全額保護されることになっていますが、名称や具体的な手続きなどについては、今後発表されると思われます。



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