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 月刊「税理」 連載コラム 2004年6月号
第6回「財務諸表など計算書類の質の向上に向けた取組み」について
 「金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)」の改訂で、経営者の資質の判断ポイントとして、「財務諸表など計算書類の質の向上に向けた取組み状況」が追加されたということですが、具体的にどのようなことに注意すればよいのでしょうか?

 「金融再生プログラム」の具体的な動きとして、金融機関は、各企業を係数により徹底的に管理をし、金融機関存続のために、破綻はもちろん、破綻懸念先の企業を切っていく事が予想されます。タイミングとしては、企業が各金融機関に決算書を提出し、各金融機関の融資担当者が会計情報などを入力し、審査部を通して結果が出たときからです。あくまでこの作業は、事務的に行われるため、『ちょっと待ってよ・・・』は、もう通用しなくなります。

 今後、数回にわたり、今置かれている金融機関の立場を理解し、それに対応すべく企業会計をどのように捕らえていくかを解説します。

<「損益計算書」から「貸借対照表」重視へ>

 企業会計の目的である財務諸表の作成では、1会計期間の経営成績を明らかにする「損益計算書」と1会計期日における財政状態を明らかにする「貸借対照表」がその中心となります。企業を客観的に評価する上では、どちらの財務諸表も重要な情報となりますが、企業評価という観点からは、「損益計算書」より「貸借対照表」に、その重要性がシフトされています。すなわち、「損益計算書」は、期間損益の結果をとらえるため、単発的な会計情報にしか過ぎず、むしろ、長年の期間損益計算の結果を毎期少しずつ受け、それを自己資本として蓄積した内容を表現する「貸借対照表」が企業評価の上で重要な会計情報となってきました。

 また、金融機関が作成する各企業のスコアリングシートでは、定量的要因の中で一番ウエイトが高いのが、安全性の指標である「自己資本比率」であり、これも「貸借対照表」の内容から導き出される指標です。

 ここで「貸借対照表」の構造を考えてみましょう。「貸借対照表」の貸方(右側)は、資本(金)の調達源泉をあらわし、具体的には、「資本」、「負債」がこれにあたります。一方、借方(左側)は、その資本(金)の運用形態をあらわし、「資産」がこれに相当します。会計学上はこのような表現をしますが、経営学上は、資本を「自己資本」、負債を「他人資本」と呼び、これらをあわせて、「総資本」と呼んでいます。また、資産の合計額を「総資産」と呼んでいます。

 最近、新聞紙上でもよく見かけると思いますが、金融機関を含めた企業の「自己資本比率」に話題が集中しています。「自己資本比率」とは、総資本における自己資本の割合をいい、言い換えるならば、どれだけ会社の資産を自分のもので賄っているかという経営指標となります。当然ながら、会社の資産は、他人よりも自分のもので賄っていたほうが良い訳ですから、自己資本比率は、高ければ高いほどよいということになります。企業規模や業種にもよりますが、30%を目標に掲げる必要があると思います。

 過去にも解説したとおり、自己資本比率を高めるためには、(1)分子を大きくするか、(2)分母を小さくするという2つの手段があることがわかると思います。(1)の具体的な方法としては、毎期利益を出すことで、剰余金たる資本を増やす方法が有ります。しかしながら、これは、利益を出すことが前提であり、また、時間がかかるということから、自己資本比率の早期改善には向きません。

 (1)の2つめの方法として、増資が有りますが、中小零細企業では役員報酬なども手控えられている現状から、その調達は、難しい状況になっています。いずれにしても、(1)の分子を大きくするのは、問題が多いのです。

 では、(2)の分母を小さくする方法、すなわち総資産(本)を圧縮する方法を考えて見ましょう。定期預金と借入金が同一の金融機関から行われていたとすれば、チャンスです。いわゆる拘束状態になっている預金をもって、当該借入金を返済することで、比較的簡単に自己資本比率のアップが見込まれます。

 今ではあまり見られなくなりましたが、上記の状態を生み出した「拘束性預金」は、金融機関から借入、あるいは手形割引の際に、その資金の一部を金融機関に預け入れしたものをいいます。例えば、2000万円の借入を行い、その内の500万円は定期預金への預入を迫られ、預金証書は、銀行預かりといった具合です。「拘束性預金」のうち、借入の際に要求される預金を「両建預金」、手形割引の際に要求される預金を「歩積預金」といいます。当然の事ながら、預金と借入は、同時に行われるべきものではなく、旧大蔵省の時代の通達により禁止されております。
 
「財務諸表など計算書類の質の向上」については、財務体質改善といった観点から検証すると、「貸借対照表」重視がそのポイントと思われます。



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